「式を書きなさい」と言っても書かない
算数の問題を解いている子に、「式を書いて」と言うことがあります。
ところが、答えだけを書く。暗算で済ませる。途中の計算だけを少し書く。そして、次の問題でもまた式を書かない。そんなことがあります。
このとき、「面倒だから」「暗算が得意だから」「式を書く習慣がないから」と考えてしまいがちです。
もちろん、そういう場合もあります。
ただ、私はそれだけではないと思っています。
そもそも、なぜ式を書くのかがわかっていないことがあります。
多くの子は「式を書かない」のではなく、「式を書けない」
もちろん、面倒くさくて式を書かない。書けるのに、わざと省略している。というのであれば、それは別の話です。
でも、文章題で式を書いていない子を見ていると、私は、「書かない」のではなく、「書けない」のではないかと考えることがあります。
文章を読んだ。数字も見つけた。
でも、その数字同士が、どういう関係なのかがわからない。
だから、何を足せばいいのか。何を引けばいいのか。何を掛ければいいのか。何を割ればいいのか。が決まらない。
この状態で、「式を書きなさい」と言われても、子どもからすれば書きようがありません。
これは、英語がわからない子に、「この文章を英訳しなさい」と言っているのとよく似ています。
英語がわからないのであれば、何度、「英語で書きなさい」と言っても書けません。
まず、言葉の意味を知る。文の構造を見る。それぞれの言葉が、どのような関係になっているのかを理解する。そのうえで、日本語を英語へ翻訳します。
算数の式も、私は同じだと考えています。
まず、それぞれの数字が何を表しているのか。何と何が関係しているのか。それはどのような数量関係なのか。そこを理解する。
そして初めて、その関係を数学の言葉へ翻訳することができます。
つまり、式を書けない子に必要なのは、「式を書きなさい」という指示を増やすことではありません。
文章の中にある数量関係を読み取り、それを数学の言葉へ翻訳する方法を学ぶことです。
式は「計算の記録」だけではない
式というと、計算をするために書くもの。途中経過を残すもの。と考えられがちです。
もちろん、それも式の役割の一つです。
でも私は、もっと大切な役割があると考えています。
式は、文章や条件に書かれている数量の関係を、数学の言葉に翻訳したものです。
例えば、「AはBの5倍より10少ない」という文章があります。
これを式にするとき、文章を数学の言葉へ翻訳していきます。
- 「Aは」
- A=
- 「Bの5倍」
- B×5
- 「10少ない」
- −10
- A=B×5−10
ここで重要なのは、単に、「は」が出たら「=」、「5倍」が出たら「×5」、「少ない」が出たら「−」と機械的に覚えることではありません。
大切なのは、その言葉がどのような数量関係を表しているのかを理解したうえで、数学の記号へ翻訳することです。
「何算ですか?」から式を作らない
文章題で、「これは何算?」と考えることがあります。
足し算なのか。引き算なのか。掛け算なのか。割り算なのか。
しかし、それだけで問題を捉えてしまうと、文章の意味より先に、使う計算を当てる学習になってしまいます。
本来は、まず、何がわかっているのか。何を求めたいのか。何と何が関係しているのか。その関係はどのようなものなのか。を見る必要があります。
そして、その関係を数学の言葉に翻訳する。
その結果として、足し算、引き算、掛け算、割り算などが現れます。
つまり、演算を先に選ぶのではなく、数量関係を式にした結果として演算が決まるという順番です。
正解していても、式を見る意味がある
答えが合っていれば、「できている」と考えたくなります。
でも、答えだけでは、その子がどう考えたのかはわかりません。
例えば、答えが24だったとしても、なぜ24になったのか。どの数量とどの数量を使ったのか。なぜ掛けたのか。何を求めた24なのか。そこまでは、答えだけでは見えません。
式が残っていれば、その子が数量関係をどう捉えたのかを確認できます。
だから、式は先生に見せるためだけに書くものでもありません。
自分の考えを紙の上に残すものでもあります。
式を書いていても、理解しているとは限らない
逆に、式がきれいに書いてあれば、必ず理解しているとも限りません。
例えば、6×4=24と書いてあっても、「なぜ6×4なの?」と聞いたときに説明できないことがあります。
問題の種類を見て、「このタイプは掛け算」と覚えているだけかもしれません。
大切なのは、式を書いたかどうかだけではありません。
その式が何を表しているのかを説明できるかです。
これは、図を描くことと同じです。
図を描いていても、意味がわかっていなければ十分ではない。式を書いていても、意味がわかっていなければ十分ではありません。
式は、文章と答えの間にある
文章題では、文章を読む。必要な数量を見つける。数量の関係を考える。その関係を式にする。計算する。答えを出す。という流れがあります。
式は、文章からいきなり答えへ飛ぶのではなく、文章の意味を数学の形に変えるための途中の言葉です。
だから私は、式を書くことを、単なる途中計算とは考えていません。
式を見ると、その子が文章をどう読んだのか。数量をどう捉えたのか。どの関係に注目したのか。が見えてきます。
- 問題文を読む
- 必要な数量を見つける
- 数量どうしの関係を考える
- 関係を数学の言葉に翻訳する
- 式になる
- 計算する
- 求めたものを確認する
「式を書かない」の前に見ること
式を書いていない答案を見ると、つい、「ちゃんと式を書きなさい」と言いたくなります。
しかし、本当に確認したいのは、式を書かなかったことだけではありません。
文章を読んで、何を求める問題だと考えたのか。どの数字に注目したのか。その数字は何を表しているのか。数字同士の関係をどう捉えたのか。なぜその計算をしようと思ったのか。そこを見る必要があります。
もし、数量関係がわかっていないのであれば、「式を書きなさい」と何度言っても、意味のある式は書けません。
逆に、数量関係が理解できていれば、その関係を数学の記号でどう表すのかを学ぶことで、式を書けるようになっていきます。
式を書かないこと自体が問題なのではない
式を書いていない。だからダメ。という単純な話ではありません。
暗算で十分な問題もあります。頭の中だけで処理できる問題もあります。
しかし、問題が複雑になったとき。条件が増えたとき。考えを途中で確認したいとき。式は非常に大切な役割を持ちます。
式があれば、自分がどの関係を使ったのかを確認できます。
途中で間違えたときも、どこへ戻ればよいのかがわかります。
式とは、答えまでの道のりを紙の上に残すものでもあります。
式は「数学の言葉」
日本語の文章には、数量の関係が言葉で書かれています。
多い。少ない。何倍。何分の一。
全部で。残り。同じ。差。割合。
こうした言葉が表している関係を、数字や記号を使って表現する。それが式です。
だから、式を書くということは、文章を読んで、その意味を別の言語に置き換えているとも言えます。
日本語で書かれた数量関係を、数学の言葉へ翻訳する。
私は、式をそのように捉えています。
「式を書きなさい」ではなく、「この式は何を表している?」
子どもが式を書いたとき、正しいか間違っているかを見るだけでなく、時には、「この式は何を表しているの?」と聞いてみる。
そうすると、本当に数量関係を理解しているかが見えてきます。
式を書かせることが目的なのではありません。
式を使って、自分の考えを表せるようになること。
そこが大切です。
式を書く習慣は、中学生以降にもつながる
小学生の算数では、簡単な問題なら、頭の中だけで答えまで出せることもあります。
だから、「式なんて書かなくても解ける」と思う子もいるでしょう。
でも、算数の先には数学があります。
中学生になると、文字式。方程式。関数。そして、さらに複雑な数量関係を扱うようになります。
そこでは、頭の中だけで計算して答えを出す、というやり方だけでは、少しずつ難しくなっていきます。
何がわかっているのか。何と何が関係しているのか。その関係をどう式に表すのか。そして、その式をどう扱っていくのか。こうしたことが、数学ではますます重要になります。
だから私は、小学生のうちから式を書くことを、単なる「途中式を書く習慣」だとは考えていません。
自分が考えている数量の関係を、数学の言葉で表す習慣だと考えています。
小学生のうちは、式を書かなくても解ける問題がたくさんあります。
でも、「書かなくても解けるから、書かなくていい」ではなく、書けるときから、考えたことを式にしておく。
その積み重ねは、中学生以降の数学で大いに役立つはずです。
算数と数学は、別々のものではありません。
小学生のときに、言葉から数量関係を読み取り、それを式に表す経験を積んでおく。それは、この先の数学へ進むための準備でもあります。
式も、答えまでの道のりの一つ
IINA算数教室では、答えだけを見ません。
式。図。途中の考え方。そして、「なぜそう考えたのか」を見ます。
式を書いていないからダメなのではありません。式を書いているから良いのでもありません。
大切なのは、その式に、その子が捉えた数量関係が表れているかです。
答えだけでは見えないものが、式には残っています。
小学5年生の算数の現在地を確認したい方へ
「文章題で式を書かない」
「答えだけを書く」
「式を書きたくても作れない」
「式は書くが、その意味を説明できない」
「何算かを当てて式を作っている」
「問題の形が変わると式を立てられない」
「解説を見れば式は理解できるが、自分では式を作れない」
こうした状態は、正解・不正解だけを見ていても判断できないことがあります。
IINA算数診断では、小学5年生の答案から、次の内容などを確認します。
- 正誤
- 途中式
- 図
- 解法の選び方
- 数量関係の捉え方
- 考え方の特徴
現在できていることと、これから優先して取り組みたい課題を整理します。